さて、「おきなぐさ」の山男シーン直前の語り手の発話「よろしい。さよなら。気をつけておいで。」の途中…さよならを言い終えた辺りで、語り手は、去って行く蟻を目で追いながら立ち上がり、無事を祈る声がけをしたのでしょう。蟻の進む方をしばし見ていた立ち姿の語り手は、ゆっくりと頭を回して、その目線の先を見るようにと読者に促してくれます。黒いひのきの森が、私たちにも見えてきました。上空からのカメラワークに切り替わることで空き地が見つかります。降りていくと、誰かいる。賢治の創り出すデクノボウ的存在・山男です。あたたかな陽射しを受けています。倒れた木にいつものようにリラックスして座っています。仕留めた鳥を食べようと手で引き裂いた、その状態でフリーズしている。山男の見ているものは何か?彼の眼玉が向いている方を見るよう語り手から促された私たち読者は、1本のうずのしゅげを発見できるのですね!うずのしゅげの花のアップから、最後はロングショットへと切り替わります。早春の光が差す、ひのきの木が周りを取り囲んでいる枯れ草の空き地に存在する[大柄などっしりとした山男]と[風にそよぐ可憐なうずのしゅげの花〕との対比が、このシーンをより印象に残るほのぼのとしたものにしてくれますね。山男の目も釘付けになるほど、うずのしゅげの花がかわいく魅力的なことを私たち読者は納得して、いよいよ始まるドラマの本編へと読み進めていくのですね(^^)
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